松坂城址、本居宣長記念館、そして多気VISONへ
〜歴史と現代が交差する一日〜 連載②
城址から下ってすぐの場所にあるのが、「本居宣長記念館」だ。江戸中期の国学者・本居宣長は、松阪の町医者でありながら、『古事記伝』などの大著を著した知の巨人。

館内には、宣長の自筆の原稿や書簡、和歌、生活道具などが整然と展示されており、彼の思索の深さや誠実な人柄が伝わってきた。
敷地内に保存された旧宅「鈴屋(すずのや)」は質素ながらも気品があり、今にも宣長が机に向かって筆をとる姿が目に浮かんだ。

江戸時代の国学者として名高い宣長は、この地に生まれ、生涯をかけて『古事記』や『源氏物語』を読み解いた。自宅兼診療所「鈴屋」にて、町医者として生計を立てつつ、夜な夜な机に向かって筆を走らせたという。記念館に併設された鈴屋を訪ねると、こぢんまりとした部屋に書物と硯、灯りが再現されており、当時の生活がまざまざと感じられる。宣長が唱えた「もののあはれ」の思想には、人の心の機微を丁寧にくみ取ろうとする優しさが滲む。学問とは、ただ知識を積むことではなく、人の本質に近づく営みである──そんな静かなメッセージが、この松阪の一角から今も発せられているように思えた。