フロイト、ユング、アドラー、そしてフランクル
それぞれの理論は異なるが、人間の心の働きを理解する上で重要な視点を提供している。
フロイト、ユング、アドラーは、現代心理学の基礎を築いた三大巨匠。心理学を学ぶ上では避けては通れない人物。それぞれが独自の学説を提唱し、その学説は現代まで引き継がれている。いずれも、根底に「無意識」というテーマを扱うが、その捉え方には大きな差異がある。
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フロイト(Sigmund Freud、1856年5月6日~1939年9月23日)
心の構造:心を「イド(本能)」「自我(現実調整)」「超自我(倫理)」の3層で説明した。
無意識:無意識が行動や精神状態を大きく左右すると考えた。これを氷山モデルで表現し、防衛機制(抑圧、合理化など)も提唱した。
発達段階:人間の発達を口唇期、肛門期などに分け、それぞれが人格形成に影響するとした。
「夢判断」:フロイトは、夢を「無意識の願望が象徴的に表現されたもの」と考えた。夢には「顕在的内容(夢で見た表面的な内容)」と「潜在的内容(抑圧された本当の意味)」があり、夢分析を通じて無意識の抑圧された欲望や葛藤を解き明かすことができると主張した。特に、性的・攻撃的な衝動が夢の中で変形されて表れると考え、精神分析の手法として夢の解釈を重視した。
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ユング(Carl Gustav Jung、1875年 7月26日~1961年 6月6日)
意識と無意識:心を「意識」「個人的無意識」「集合的無意識」に分けた。特に集合的無意識には、人類共通の元型(アーキタイプ)が含まれると考えた。
タイプ論:人間の性格を「外向型」と「内向型」、さらに4つの心的機能(感覚、直観、思考、感情)に基づいて分類した。
「自我と無意識」:ユングは、意識と無意識の相互作用を重視した。「自我」は自己意識の中心であり、個人のアイデンティティを形成する。一方、「無意識」には個人的無意識(個人の経験や抑圧された記憶)と集合的無意識(全人類に共通する元型や神話的イメージ)が含まれる。自己実現(インディビジュエーション)とは、自我と無意識のバランスを取りながら、より統合された自己を目指すプロセスを指す。
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アドラー(Alfred Adler、1870年2月7日~1937年5月28日)
個人心理学:人間を統一された存在と捉え、「目的志向性」や「自己決定性」を重視した。人は環境や過去よりも、自らの選択によって人生を形作ると考えた。
劣等感と共同体感覚:劣等感を克服する努力が成長につながり、他者との協力や貢献(共同体感覚)が幸福の鍵であると提唱した。
「生きる勇気」:アドラー心理学では、人間の行動は「劣等感を克服しようとする努力」によって動機づけられると考える。「生きる勇気」とは、自分の短所や困難を受け入れつつ、他者とのつながりを大切にしながら前向きに生きる姿勢のことである。「目的論」では、過去の経験よりも「これからどうするか」が重要視され、個人が未来に向かってどのような目標を持ち、それに向かって努力するかが強調される。
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最後に、フランクルはナチスドイツの強制収容所の苦境を撥ね退けた英雄だろう。ホロコースト生還者。オーストリアの精神科医、心理学者。患者が自ら生きる意味を見出す手助けを施すことにより、精神障害を克服する心理療法「実存分析」(のちのロゴセラピー)を提唱した。
ヴィクトール・フランクル(Viktor Frankl 、1905年3月26日 ~ 1997年9月2日)
ロゴセラピー:「人生の意味」を見出すことが精神的健康に不可欠だと主張した。特に、逆境や苦難の中でも意味を見つける力が重要だと説いた。
自由と責任:人間は状況に関わらず、自分の態度や行動を選ぶ自由があり、その自由には責任が伴うと考えた。
「夜と霧」:精神科医として冷静な視点で収容所での出来事を記録するとともに、過酷な環境の中、囚人たちが何に絶望したか、何に希望を見い出したかを克明に記した。フランクルが本当に伝えたかったのは、(ナチスの残虐性ではなく、)「どんな苦境においても生きることには意味がある」というメッセージ。
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最後に
これらの理論は、それぞれ異なる視点から人間心理を探求し、心理学全体に多大な影響を与えた。