医療法人社団 山中胃腸科病院【公式ホームページ】

2023/7/20 ブログ

医療安全

 6月末、医療安全の院内講師をした。かつて横浜勤務時代、医療安全管理室委員を拝命した。そこで、インシデント・アクシデントレポートや医療事故(=医療関連で発生した過失の有無を問わないものと定義)の対応に追われた。
 医療事故を皆無に出来ない以上、医療安全は永遠の課題である。

 講演内容のキーワードは以下の通り。
  フェイル・セーフ(fail safe)
   失敗しても安全。
  フール・プルーフ(fool proof)
   そもそも失敗できない。
  緊急対応体制(RRS:Rapid Response System)
   急変の前兆を早目にとらえて、急変を未然に防ぐ取り組み。

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 さて、医療人となれば、多かれ少なかれトラブルに巻き込まれる。未然に防ぐことが出来ればいいのであるが、そう簡単にはいかない。古い組織体質?(=伏魔殿)を感じることがある。高梨ゆき子の医療ノンフィクション「大学病院の奈落」(2017年8月初版)を読むと心当たりがないわけでもない・・・。

(小生、アマゾンで購入)

 2011〜2014年に群馬大学病院で腹腔鏡手術を受けた患者(少なくとも8人)が死亡したとスクープされた。遺族は報道されるまで何も知らされず、第一外科と第二外科の確執、学長選挙、医師の技量不足や功名心、専門指導医資格のまやかし、先端医療の落とし穴と医療保険制度のグレーゾーン、学会の思惑などが取り上げられた。また、第二外科の腹腔鏡手術以外の手術、すなわち開腹手術の死亡例も多いという事実も明るみになった。外科同士の縄張り争いとは?医師はどうして名声を求めるのか?医師の暴走に歯止めをかける仕組みがなかったのか?
 権力争いや功名心など、人間の中にある負の側面が医療業界に出てくると、患者という弱者がさらにどん底へ突き落される。日本の医療が安全性と有効性をしっかり確立しないといけない。先進医療が安全に行われるためには、「見える化」が必要である。失敗する前に協力し合える文化を根付かさなければならない。
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 医療事故(=医療関連で発生した過失の有無を問わないものと定義)のうち、医療過誤は過失があったものであり、いわゆるミスである。患者取り違え、間違った注射などがこれに当てはまる。一方で、「医療事故」の定義は曖昧であるといわざるを得ない。医療法第六条の十によると、医療事故は「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう」とされ、死亡に限定されている。医療事故の定義には、解釈にズレが生じているように思える。

 さらに、医療の質を求めることは当然である。例えば、「研修医(1~2年目の医師)と20年目のベテラン医師のどちらに手術してもらいたいか」という問いに対する答えは明白であろう。経験値がものをいう。ただし、患者は医者を選べない現実がある。しかし、日本国憲法第13条に幸福追求権(幸福期待権)がある。少しでもいい結果を期待することは、万人の権利であることは言うまでもない。
 最後に、平成天皇(現、上皇様)の心臓手術は天野教授が主執刀した。宮内庁は最も成功率が高い心臓外科医に依頼したという。もっともな話である。最強の医師団(東京大学と順天堂大学の合同チーム)であったと思う。ちなみに、昭和天皇の大量輸血(計20000cc超)も尋常でなかったという遠い昔の記憶がある。これもある意味、ごもっともな医療である。
 とにかく、医学界の自浄作用(オートノミー)が日本の医療を変えてくれることを心から期待している。そして、緊急対応体制(RRS:Rapid Response System)を基本として、医療安全と医療の質向上に尽力したい。

付録:医療法

第六条の九 国並びに都道府県、保健所を設置する市及び特別区は、医療の安全に関する情報の提供、研修の実施、意識の啓発その他の医療の安全の確保に関し必要な措置を講ずるよう努めなければならない。(平一八法八四・追加)
第六条の十 病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を第六条の十五第一項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。
2 病院等の管理者は、前項の規定による報告をするに当たつては、あらかじめ、医療事故に係る死亡した者の遺族又は医療事故に係る死産した胎児の父母その他厚生労働省令で定める者(以下この章において単に「遺族」という。)に対し、厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない。ただし、遺族がないとき、又は遺族の所在が不明であるときは、この限りでない。(平二六法八三・追加)
第六条の十一 病院等の管理者は、医療事故が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査(以下この章において「医療事故調査」という。)を行わなければならない。
2 病院等の管理者は、医学医術に関する学術団体その他の厚生労働大臣が定める団体(法人でない団体にあつては、代表者又は管理人の定めのあるものに限る。次項及び第六条の二十二において「医療事故調査等支援団体」という。)に対し、医療事故調査を行うために必要な支援を求めるものとする。
3 医療事故調査等支援団体は、前項の規定により支援を求められたときは、医療事故調査に必要な支援を行うものとする。
4 病院等の管理者は、医療事故調査を終了したときは、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、その結果を第六条の十五第一項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。
5 病院等の管理者は、前項の規定による報告をするに当たつては、あらかじめ、遺族に対し、厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない。ただし、遺族がないとき、又は遺族の所在が不明であるときは、この限りでない。(平二六法八三・追加)
第六条の十二 病院等の管理者は、前二条に規定するもののほか、厚生労働省令で定めるところにより、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該病院等における医療の安全を確保するための措置を講じなければならない。(平一八法八四・追加、平二六法八三・旧第六条の十繰下・一部改正)

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