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(その1)夏目漱石の短編小説「変な音」

「変な音」は、「思い出すことなど」の番外編にあたり、(漱石の)胃腸病院入院中の体験を扱ったものとされる。ちなみに、「思い出すことなど」では、漱石の吐血シーンが生々しく描写されている。

「変な音」は、ある病室にいる患者(漱石)が、他室の患者のたてる異常で敏感な「音」に関心をもつ話である。死にゆく患者と軽快退院してゆく患者の運命的な対照が描かれている。

つまり、生と死の「アイロニー(皮肉)」である。

生死の境を彷徨った漱石は、胃腸病院に2回長期間入院した。

「変な音」は、1回目入院(1910/6/18~7/31)を「上」として、2回目入院(1910/10/11~1911年2/26)を「下」として二つに分けて書かれたものである。

「上」のあらすじ

壁一枚で隔てられた隣室から大根を卸すような妙な音が聞こえて、(漱石は)気になって仕方がない。「それにしても、今頃何の必要があって、隣室で大根卸を拵えているのだか想像が付かない。」と感じていた。看護婦と患者の受け答えも聞こえるにもかかわらず、見当がつかない。

ある日、隣室患者は退院したらしい。(漱石も)後日、退院したが、音に対する好奇の念はすでに頭から消えていた。

「下」のあらすじ

自分(漱石)自身の病状の深刻さゆえに、あの音のことを思い出す余裕もなかった。同じ病棟の患者が続けざまに亡くなり、「3人のうち2人死んで(食道がんと胃がん)、自分だけが生き残ったから、故人に対して気の毒なような気がする」というありさま。

病気はやがて快方に向かい、あの妙な音の聞こえてきた隣室の担当看護婦に、(漱石は)たまたま病棟内で遭遇した。看護婦は先行して、「あの頃、貴方(漱石)の御部屋で時々変な音が致しましたが…」と自分(漱石)に尋ねた。それは、安全剃刀を研ぐための自働革砥の音だった。隣室患者は、「隣人(漱石)は大分快いので朝起きるすぐと、運動をする、その器械の音なんじゃないか羨ましいな」と繰り返しこぼしていた。

自分(漱石)の気にしていた音の正体がやっと判明した。胡瓜を擦る音だった。あの隣室患者の足が火照るので、看護婦が擦り卸した胡瓜の汁で冷やしていた。しかし、退院後まもなく亡くなった。直腸がんだった。

胡瓜の音で他を焦らして死んだ男と、革砥の音を羨ましがらせて快くなった自分(漱石)との相違を、(漱石は)心の中で思い比べた。

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