空の巣症候群
子どもが成長し巣立っていき、巣(家)が空っぽになってしまったことが喪失体験となり、寂しさなどを感じること。
かつて(今から20年前に)、経験しました。消化器症状を訴えてきていたのですが、情動失禁(感情が乱れている状態)もありました。中年女性。消化器内科専門外来でしたので、消化器の目で見ていました。ああ経験浅く、あとから気づいたという始末。
それにしても、「空の巣症候群」という言葉を、当時の私は知っていたはずなのに。知識としては・・・。子どもが成長し、家を巣立ち、ぽっかり空いた巣(家)を前にして親が喪失感や寂しさに襲われる——教科書にはそう書いてある。
その典型例のような中年女性が、主訴は消化器症状。ついでに情動失禁あり。泣く、揺れる、話が脱線する。にもかかわらず私は、立派に「消化器内科専門外来の医師」をやっていた。胃、腸、検査、薬。そこまでは完璧だった。
ところが、人間は見ていなかった。「経験が浅かった」とは思いたくない。「視野が狭かった」と言いたい。症状は診たが、人生は診ていなかった。空の巣を前にした患者と、空っぽの想像力を抱えた医師。
どちらがより未熟だったか——答えは、今ならはっきりしている。










