楽しい思い出がよみがえった。ちょっと切ないけど。
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独身時代、彼女――今の妻とともに、北陸の名湯・宇奈月温泉を訪れた。黒部の仕事を終えた足で向かったその地は、山あいに湯けむりが立ち上る静謐な温泉郷。トロッコ電車に揺られ、峡谷を縫うように走る車窓からは、深い緑と清流が目に飛び込んできた。2泊3日、温泉の湯に身を沈め、日常の喧騒を忘れるひととき――のはずだったが、頭の片隅には仕事のことがちらつき、心から羽を伸ばすには至らなかった。
帰路につくや否や、敦賀での仕事が待っていた。旅の余韻に浸る間もなく、現実へと引き戻される。それでも、束の間の逃避行は、心に小さな灯をともしてくれた。
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同じく独身時代に彼女――今の妻とともに、スペイン村へと足を伸ばした。異国情緒あふれる街並み、陽気な音楽に包まれた2泊3日の旅。ここでも「ゆっくりできた」と言い聞かせながらも、仕事の影が背後にピタリとついてくる。完全な解放には程遠い。それでも、彼女と過ごす時間が、忙しない日々の中で確かな彩りとなった。
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仕事に追われながらも、旅を重ねたあの頃。心から満喫できたとは言い難いが、今思えば、その不完全さこそが人生の旅路に深みを与えてくれているのかもしれない。