日本昔ばなし(福井)
ちょっと泣けてくる
昔、福井の味真野(あじまの)というところに、太郎という男の子がいました。
太郎の本当の母親は小さいころに死んでしまい、新しくきた母親に育てられました。
しばらくすると次々に子供が生まれましたが、父親は急な病で死んでしまいました。
新しい母親は、太郎を本当の子供のように育て、後に生まれた弟たちと分け隔てなく接しました。
でも、こんな良い母親には「すぐ怒る」という悪い癖がありました。
今日も思わずカッとした母親は、晩御飯の用意を忘れてしまった太郎を怒鳴って殴りつけ、家から追い出してしまいました。
太郎を追い出した後、母親は激しく後悔しました。
でも20日経っても太郎は見つからず、家にも帰ってきませんでした。
母親は、「もう二度と怒らない」と仏様に祈りながら、太郎の帰りを待ちました。
やがて秋になった頃、突然、太郎が家に帰ってきました。
ずぶぬれで着物もボロボロでしたが、丸々と肥えて元気そうな姿でした。
太郎が帰ってきて喜んだ母親は「これまでどこにいたんだ?」と問いかけましたが、太郎は黙ったままでした。
うんともすんとも言わない太郎に対して、母親は次第に怒りが込み上げてきました。
「もういい!そんなに強情はるなら出ていけ」と、再び家から追い出してしまいました。
ああ悲し。
しかし、母親は仏様に誓ったことを思い出して、急いで太郎を追いかけました。
太郎の足跡を追いかけてたどり着いたその先には、お寺がありました。
お寺の裏庭には甘い水が湧きだす泉があって、母親がこの水を一口飲んでみると元気が湧いてきました。
太郎もこの水のおかげで、元気に育っていたのです。
あーよかった。
この不思議な泉は「子育ての泉」とよばれるようになり、この話を知ったお寺の住職が太郎を引き取り育てることになりました。
やがて、太郎は成人してお寺の住職になりました。
そうして、親のない子供や恵まれない子供を寺に引き取って育てたそうです。
後妻の宿命なんだろうか。実の親子でないと、微妙に心のすれ違いがあるのだろう。