日本の医療とセルフメディケーション ― 「自己責任」という名の万能薬
日本では「セルフメディケーション」が奨励されつつある。つまり、「軽い症状は自分で治そう」という美徳である。聞こえはいいが、裏を返せば「病院に来るな、医療費がかかるから」という財務省のやさしいあまい囁きだ。
OTC薬(市販薬)は増え、ドラッグストアはコンビニ化した。医師より薬剤師、薬剤師よりレジ前のポイントカードが頼もしいのだ。国民は「自分の健康は自分で守る」と言いながら、実際には「自分の体を国家財政から守っている」ようだ。
一方、医療機関では患者が減らない。「風邪で来るな」と言いながら、「風邪も診ない医師」と罵られる。結局、医師は「最後の消費者相談窓口」として、OTC薬で悪化した患者の後始末を請け負うことになる。
セルフメディケーションとは、自己判断・自己治療・自己責任の三拍子が揃った時代の呪文だ。だが、責任を取るのはいつも「自己」ではなく「医師」。つまり、最終的には「セルフ」の部分だけが国民に押しつけられている。
WHO(世界保健機関)によるセルフメディケーションの定義は、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」である。厚生労働省は、「国民の自発的な健康管理・疾病予防の取り組みの促進・医療費の適正化にもつながる」としている。例えば、「風邪かなと思ったら栄養ドリンク剤を飲んで早めに休む」「頭痛などの場合、市販薬を飲む」「ケガをしたら絆創膏を貼る」など。
病院に行くほどでない医療は、低価値医療なんだろうか?
民間療法は、無価値医療なのか?
そもそも医療とは?
分からなくなった私は、しばらく現場を離れる決意をした。










