嗚呼。
医師とは、人生の航海におけるただの寄港地係にすぎないのかもしれない。
患者が荒波を越え、嵐に立ち向かうその航路を、医師は診察室の窓からその一瞬だけ垣間見るだけだ。
聴診器をあて、血圧を測り、検査値を眺めながら、「経過良好」や「変化なし」とただ書くだけ。
だが、その背景にある夜の涙も、家族との軋轢も、静かに募る孤独も知らないまま。
医師の見ているのは、人生という絵巻物のほんの切れ端。
切り取られた部分だけを診て、「全体」を語ろうとするこの滑稽さよ。
まるで、虫眼鏡で花びらのシミを観察しながら、「この花は幸福だ」と断言するようなものだ。
それでも白衣をまとい、「先生」と呼ばれてしまう。
この矛盾の中で、無力感と傲慢感が見事に同時に存在している。
この調子だと、私は一生、「医者になれない」と感じてしまう。もう成れなかったと言わざるを得ない。いや、そう結論づけた。暗い未来だ。










