医療現場のいじめ――日本の臨床研修医調査から考える――
日本の臨床研修医を対象に、37病院で行われた横断調査(2007年実施)では、医療現場におけるいじめ・ハラスメントの実態が報告されています。
この調査によると、最も多く報告されたのはいわゆる言葉による虐待で、全体の72.1%を占めていました。また、女性研修医ではセクシャルハラスメントの経験も多く、58.3%が被害を受けたと回答しています。一方で、こうした問題を上司に報告した割合は12.0%にとどまっていました。
(参考文献)Nagata-Kobayashi S, et al. Universal problems during residency: abuse and harassment. Med Educ. 43:628–636, 2009
いじめやハラスメントは、研修医時代に限った問題ではありません。研修を終えた後も、医局という閉鎖的なコミュニティの中で、目に見えにくい形で続くことがあります。
必要な連絡事項を伝えない、特定の医師にだけ過重な業務を集中させる、手技や経験の機会を与えない、いわゆる「干す」行為などがその例です。
また、論文執筆などの学術的な機会が与えられず、立ち回りの上手な別の医師に回されることもあります。これらは第三者からは気づかれにくく、同じ職場にいても問題として認識されないことがあります。
医療現場におけるいじめの深刻さは、最終的に患者への不利益として跳ね返ってくる点にあります。上下関係を過度に意識する環境では、若手医師やコメディカルが異変に気づいても報告をためらい、医療事故やヒヤリ・ハットの見逃しにつながる危険性があります。
被害者に求められるのは、個人の勇気だけではありません。事実を記録し、孤立しないための仕組みが必要です。報告率が12%にとどまったという事実は、声を上げることで不利益を被る可能性を多くの人が予測している、という構造的な問題を示しています。
いじめは当事者間の問題のように見えますが、実際には周囲の沈黙によって維持されます。重要なのは、完璧な正義を求めることではなく、被害者の安全を守るために、事実を記録し、適切な窓口につなぎ、当事者を孤立させないことです。
医療の質と患者安全を守るためにも、この問題は個人の資質ではなく、組織として向き合う必要があります。










